最初に書いておきます。
この記事に、「今年のコミケの修正方法はどこまでだったらOK出る?」答えは一切書いておりません
そういうものだけをお探しの方は、時間の無駄なので他のところを探しに行くか原稿やったほうがいいと思います。

 コミックマーケット準備会のサイトに【注意喚起】コミックマーケットにおける頒布物の表現についてというページが上がっております。コミケサークル参加者向けの資料である「アピール」に掲載されていた文章とだいたい同じものです。
……ものすごく余談だけど、「修正は商業誌に準じる」って記載とわいせつ図画の件については、以前からもアピールに明記されていましたからね…。一部で「今回わざわざ明記されるようになった!」と騒いでいた方がおりましたが。
とはいえ、わいせつ図画と表現の自由に関してあまりよろしくない状況なのは事実であり、かなり強い口調な文章なのは否めない。そういう意味で、以前より目立ってたから!というのはあるかもしれないですね。
(ただ単に誰かが騒がないとみんなアピール読まないんじゃね?と邪推したのは秘密)

ともかく、これらで「わー!修正きつくかけないと駄目だってー!」「修正どうしたらOK?海苔?白抜き?黒ベタ?大きさは?」みたいな話が流れてて、更に「商業誌ったってたくさんあるけど、どれが基準なんだよー」「基準書けよ基準」みたいな話まであって、さあ。
うん。気持ちはわかるんだけど、正直なところ、その部分がどれだけ精密に描かれているか、カラーかモノクロかグレスケかで変わってくるのよね……。どんな絵・シチュエーションでも確実にOKが出る修正方法は「性器や結合シーンを広範囲でベタ塗りつぶし(白黒は問わない)」か「そもそもそれらの絵を一切描かない(所謂「新婚さん」やチュン明けなど)になるんだよなあ……。描き手としては一生懸命描いた絵の一部を消したりするのが苦痛故に、できるだけそれを残しつつ、でも逮捕されない程度に修正するわけで……。

と思っていたら、「商業誌はゾーニングの有無で修正方法が変わる」とかといったおかしなつぶやきが流れて、ちょっとびっくりしております。ゾーニングって青少年育成条例対策であって、今回の「わいせつ図画」の件は無関係だぞ。わいせつ図画は成人が成人に頒布してもアウトなんだぞ。 

というわけで、修正の前提となる「わいせつ図画」ってなんぞや?という話が今回の記事になります。
もう1回書いておきますが、「コミケ修正方法はこうすればよし!」という内容は、この記事のどこにもありません。あしからず。


……基礎的な内容なので、わいせつに詳しい人はよく聞く話だと思うよ、うん。


 

なんでエロ絵は修正しないといかんかというと、逮捕されちゃうから!なんですが。
逮捕根拠の刑法175条にはこう書かれております。
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。
つまり、わいせつな文章や絵をコミケで頒布・販売どころか、サークル机に並べるだけでも、懲役か罰金刑になるよ!たとえコミケ落選したとしても、いつか販売するつもりで作って持ってるだけでも同じ刑が出るよ!というわけ。
……たまに、「だったら無料配布ならいいんじゃねえの?」とか言い出す人いるんだけど、悪いことは言わない、やめとけ。法律は有料無料関係ないから。
あと、誤解されてる点が多いんですが、「販売目的じゃない所有」は問題ありません。なので、昔買った修正が薄いエロ本とかを持ってる人が「持ってるだけ」では罰せられません(コピーしたりして配ったら別よ)。売った人と作った人が罪になる法律であって、買った人は罪にならないのだ。
(けど、わいせつ図画を買ってむき出しにして歩いてたら、それは逮捕されるかもしれない。わいせつ物陳列罪で)
ちなみに、CDやDVDなどの電子メディア媒体であっても、わいせつと認定されるとアウトです。写真集や動画(実写・アニメ共に)はもちろん、CDドラマみたいな「音」媒体でも、「わいせつ」と認定されると逮捕されちゃいます。 

似たようなややこしさがあるのが青少年育成条例(有害図書)と成人マークなんですが。

青少年育成条例の方は、わいせつではないけど、性や暴力表現が露骨に書かれている文章や図画などを、「未成年(青少年)に」見せたり売ったりしてはいけないというものです。もう少し表現がソフトであっても適用されますし、成人した大人に売ったり読ませたりすることは罪になりません。また、修正の有無は無関係です(わいせつに該当するレベルの無修正はわいせつ物頒布等の罪になります。修正がきっちりくっきり施してあっても、「有害図書であるとみなされる(成人マーク付き含む)」「未成年に売った」の2つが該当すると自動的に条例違反が成立する)

成人マークは「これは成人しか読んではいけません」という青少年育成条例に対する自主規制であり、作者(出版社)の意思表明。たまに成人マークをつけていれば修正薄くてもいい!ということをおっしゃる方がおりますが、修正そのものは「わいせつ」に関係する話なので成人マークとは別枠で考えないといけません。


じゃあ、わいせつな文章や図画ってどういうのを指すのか。
一応、判例などでは「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反する」 って言われてるんだけど、ぶっちゃけ何言ってるかよくわからないよね(ぁ。
ようするに「それを見たり読んだりしたら普通の人が恥ずかしい!と思いつつも性的に興奮して、その場で性行為(セックスだけじゃなくオナニーなども含めて)したくなるようなもの」ってことらしい。
普通の人ってなんだ普通の人って。

(新幹線)はやぶさ(はやて)とこまちの連結シーンの描写を(擬人化せず新幹線車体のままで)徹底的に艶かしく書いて、それを読んだ普通の人が「エロい!」「うわ、抜きたくなった!」とか言われたら、はやこまの連結シーンはわいせつ文章になるのかー!

A:それだけの文章表現力があれば、別の仕事が出来るよね!(台なし
……じゃなくて、そんなことはない…と思う。やったことある人いるんだろうか。 

一般的には、性器そのものの描写と性行為シーンについて「わいせつ」かどうか判定されます。

これについても、性行為シーンがあったら即わいせつかというと、そんなことはない。
「彼女とデート。セックスした。朝までやった。」だけの文章にわいせつ性があるか。ないよね。
けど、もっと細かく、彼女のあそこの描写だの己のナニの形状大きさの変化だのセックスの一部始終だのを描写したら、わいせつ性が認定されるかもしれない。
正直、どこまでならOKかというと、残念ながら基準はない。悪意を持った書き方をすると、警察と裁判官のさじ加減。 ある意味「被害者なき犯罪」であるので、目をつけられないようにするのが一番という身も蓋もない発言しかできない(法律家がそういうのはまずいけど、一般人がそういうのは見逃してもらえるよね的発言)。
けど、おまわりさんに見つかるかもしれない。その時に誰が見ても「これはわいせつ物じゃない」と言い訳できるようにしておかないといけない。

その方法の1つとして、そこを別のものに置き換えるというのがあります。
文章だと顕著なもので、男性器について「ナニ」だの「男性自身」だの「キャノン砲」だのという別の単語置き換えて描写されることがあったりします。一応誤解されると困るので明記しておきますが、「ちんこ」だの「ペニス」だのと言った言葉を使っただけではわいせつ認定はされません。そもそも性の解説するときに単語使っただけでアウトと言われたら解説もできないし。ただ、明らかなエロシーンと思われる描写において「ペニス」「ちんちん」なんて言葉を使うとあからさま過ぎます。
「これ、わいせつな濡れ場シーンじゃないか!」
「何を仰るおまわりさん。ここは「キャノン砲」が火薬庫に突入していると明記してあるではありませんか。キャノン砲が火薬庫に突入したらわいせつに当たるのですか?」
「ここは「ナニ」という記載があるぞ」
「ナニをなんだと思ったのですか?そんなことは一般人は考えませんよ。(おまわりさんが変態なだけじゃありませんか?)」
といって逃げることがやりやすくなります。
……けど、文章はそれでいいけど、マンガや絵画だとそうは行かなかったりするよね。
(ギャグ表現としては有効だと思うんだけど) 
なので、漫画などの場合、別の手段として「性器やそのシーンの一部を隠したりすることで「おまわりさん、そう見えるけど違うんです」と答えやすくする」手法を取ります。これが、黒ベタ白消しだったり、モザイクだったりします。「普通のきのこを描いたんです」「それ、ただの線です」「入っていません。抱き合ってるだけです」と言い訳して、「……ああ、そう言われればそうかもね」と言わせれば、わいせつの罪には問われません。
修正による隠しが明確かつ大きくとられていればいるほど、わいせつの認定は取りにくくなります。 見えてないから。読んだ人が消された部分を妄想でカバーして性的興奮してる分にはわいせつ認定できません。所詮妄想なので。妄想なしで性的興奮できるのは駄目ってことになります。


「紙に線を数本引いただけで、その組み合わせが性器に見えるからって、それでわいせつはおかしいだろ!」というごもっともな意見もありますが(表現の自由の問題もあるし)、現状はこんな感じです。正直、犯罪かどうかを見極める人の主観次第。 
そして、人間の目というものは精密に描かれていればいるほどリアルに感じるし、白黒(2値)画よりもグレースケール、グレースケールよりもフルカラーのほうが立体感含めリアルに感じがちなので、最近流行りのフルカラーエロイラストは相当きつ目かつ広範囲に渡る修正を施さないと目をつけられてしまいます。
しかも、描き手こだわりのスジだのシワだのを精密に描けば描くほど、修正をきつく広くとらないと警察さんが手招きしてしまうという悪循環。 
ついでに言うと、絵は所詮絵であるから「これはゴミが偶然こうなった!」「それちんこじゃなくて松茸!」って言いはることがまだできなくはないんだけど、実写に関しては絶対に言い逃れができない。ゆえに、コスROMに関しては相当厳しい修正を要求されるわけ。
で、こう言うときに「商業誌基準」と言われるのは、普通に販売できる=警察がわいせつ認定していないという単純な理由。ただし、細かな規定があるわけじゃないので、けーさつさんの上の人が変わっただけで判断基準変わったり、今までOKだった修正方法や範囲だと突然駄目!と言い出したりするのが、昨今の状況でございます。
……なので実は、商業誌よりも同人誌のほうが修正基準はきついというお話。

一度逮捕されると、たとえ無罪判定もらってもその後の人生が大変だからねー……。
危ない橋は渡らないようにしたいよねー……。



最後に。
「でも、このわいせつ頒布の罪ってサークルだけが罰せられるんでしょー?自分が逮捕されたら諦めるしー、別にいいじゃん!」という方が時々おられます。
危ない橋をわたってでも、限界エロに挑戦するのが表現者のジャスティス!という気持ちもわからなくはない。

ただ、お前は良くても他の人達がよくないんだ。

例えばコミケでわいせつ物が見つかったとする。
サークルが逮捕される。
と、コミックマーケット準備会も、「わいせつ物であると知りながら頒布を許可した」ってことで、共犯扱いになります。
……以後、会場がイベント開催場所として提供してくれる可能性は激減するわな。
そもそも、準備会の中の人が取り調べられるわけで、その間に準備なんかできんし、とりあえず釈放されたとしても無罪確定出るまでは「法律破ったんじゃねーか疑惑」のままだし、そんなところが「もう犯罪者出さないから」といって信じてもらえるか?という問題もあるし。

……と話をしたときに「じゃあ、コミケは見本誌チェックしなきゃいいじゃん。知らなかったで通るでしょ?」と言われたことがあるんですが。
これについては、現在コミックマーケット開催にあたりビックサイトからの貸出条件の中に「販売物チェックを行い、わいせつその他違法なものの展示販売がないようにすること」があるゆえ、見本誌チェックを行っておりますとだけ。 

そして、コミケがそういう理由でなくなった場合、後継イベントが出来るのか。
それは誰にもわからないのです。