TPPの報道が色々流れております。
……個人的には「アメリカさんが自分の思い通りのTPP条件勝ち取れなかったら降りる!って言ってるんだから、どの条項でもいいからアメリカさんの思い通りにならない条件にしちゃって、降りてもらったらいいんじゃないかな…そしたらTPPなかったことになるでしょ」と思ったりします。ダメですかそうですか。

同人界隈においてTPPというとどうも【著作権非親告罪化】の話ばかり出るのですが。
TPPそのものを誤解してる人と、非親告罪化でどう変わるかわかってない人が多いなあと思ってブログにした次第。

といっても、私が調べて思ったこと書いてるにすぎないので、特に未来予想については当たるかどうか保証できない点についてあしからず。

 

まずTPPというのは環太平洋パートナーシップ協定の略になります。とかくとわかりにくいけど、以前は環太平洋戦略的経済連携協定という名前でした。経済連携協定あたりの文言で察していただけると幸いなのですが、これ、要するに貿易協定みたいなもんなのよ。著作権の話とかって、TPPの中のほんの一部分のカテゴリにすぎない。ありとあらゆるものを協定結んだところは統一してやろうね!ってやつです。

一応内閣官房及び外務省でもこのへんの資料は出してるので、興味のある人は読んでみてください。
(内閣官房のページ) (外務省のページ)

で、だ。 
実は著作権非親告罪化って話はあんまり議論されてなくて、著作権界隈のテーマは医薬品の著作権(端的にいうとジェネリック医薬品が作れるようになる期間の短縮)がメインだったりします。医薬品って日本やアメリカなど先進国が先発品作ってるんでねえ。先発品作ってる国としたら安いジェネリック作られたらなかなか売れなくなるのでできるだけ長い期間ジェネリック禁止にして欲しいし、逆に医薬品を輸入に頼ってる国としたらさっさと安く買えるジェネリック作って欲しいわけ。命に関わるから(!)

……なので、日本としては創作物の著作権非親告罪化について話し合いしたがってるんだけど、結構他国にはスルーされてるので……あんまり良い空気じゃないのです、ハイ。

さて、本題。

じゃあ、TPPが決定し、その中で著作権非親告罪化と決まったらどうするのか?

根本的な話として、TPPが決まったからといって国の法律がその日に一気に変わるわけじゃない。日本の国としては、もちろんベースにするでしょうが、新たに法律を作る(もしくは既存の法律を改正する)必要がある。法律は国会で可決されないと実行されることはない。
というわけで、もう少しタイムラグがあります。正直、交渉の内容が非公開扱いのTPPにロビイング運動するよりは、誰に言えば筋通しやすいかってのがわかってる国内法律制定時になんかしたほうが楽だったりします。なんというか、そのへんうまい具合になあなあしてくれるように仕向けるにはね。
※もちろん、それがうまくいくかどうかはわかりません。が、TPPの枠組みを変えるよりはやりやすいという話。

という話の他に。
著作権が非親告罪化されると、一体何が変わるのか。

親告罪というのは、被害者が「こいつ私の権利を侵害しました!」と言わなければ成立しません。
非親告罪は、被害者が言わなくても成立します。
というあたりで「好き勝手に逮捕して同人作家取り締まれるんだ!」と吹聴されてますが……。

まず間違い1つ目。上記の「成立」というのは【逮捕】ではなく【起訴】のことです。
そもそも警察に逮捕された段階ではあくまで【容疑者】であり、侵害してるともしてないとも言えない状態です。これが検察に【起訴】されると被告となり、権利を侵害した当事者という扱いになります。
※さらにいうと、起訴されても有罪が確定するまでは罪人ではありません。 無罪判決が出ることもままあります。
なので、逮捕されたと権利侵害をした罪人は必ずしもイコールじゃないのです。

2つ目。
現状どうかというと。実は、警察は被害者が申告しなくても逮捕まではできちゃいます。別件逮捕のパターンとしてよく使われてたりしております。ただし、親告罪のものを【起訴】する段階では、被害者とされる人に「こいつ侵害してるから厳罰に処してよ~って紙にサインしてくれない?」ときて、サインされないとダメです。そして、警察にそれを言われてサインしない人はあんまりいない。
今の日本国民の感情として、逮捕=罪人確定!の勢いで、勾留されるわ、職を失うわ、本名から過去の経歴やらさらされるわと人権なくなるようなものなので、逮捕されたあとの流れは、親告罪の現状とあんまり変わらないはずなのよね。

そして3つ目。
そもっそも、非親告罪になっても、取り締まるだけの人を割ける余裕など、今の警察にはありません。すごーーーーーーく嫌な言い方すると、【警察が逮捕することによって、それに関わった人たちが出世できるような内容】じゃなければ、そうそう動きません。元々著作権関係の話はいわゆるファンアート(二次創作)ではなく海賊版業者を取り締まるために強化されたという経緯があります。そして、海賊版作ってたのが誰かっつ~と、こわーいヤのつく方々で、彼らの資金源になっていたからというのが真相。
……同人関係で逮捕が出る場合、表向きは著作権侵害の罪とか言われますが、ヤな人の資金源になってるというタレコミがあって、強制捜査するために使われてることがほとんどです。
※この辺は昔を知る方々に語っていただきたいのですが、80年代後半~90年代にかけて【海賊版同人誌】という複数サークル同人誌を4~5本まとめて印刷製本しなおして(単品で買い揃えるよりも)格安で買えるってものがありました。これを作っていたのがヤの方々。同人誌=違法!ってのも、当初の出処はここだったりします。2次創作が違法と言い出されるのはもう少し後なのよね。

というわけで、個人的には今とあんまり変わらないと思います。
せいぜい変わるとしたら、起訴するときに作者から被害届出てなかったとしても起訴にもっていけることくらいか。東方プロジェクトの2次創作作品をヤな方々が作っていたとして、親告罪のときはZUNさまに一応サイン書いてねってやらないといけなかったのが、ZUNさまのサインがなくても起訴→裁判できちゃうと、まあそういうことです。

ただし。
仕組みとしては何ら変わらねえよと言いつつも、著作権非親告罪化ってのは怖いと思います。

それは、警察の方ではありません。 
裁判所とかでもないよ。

著作権侵害って今までの親告罪のときは「実際に権利を侵害されている人」しか訴えられないのです。
第三者がどれだけこれアカンだろと思っても、第三者が訴えることは出来ません。
が、非親告罪となると第三者が訴えることが出来る【と思ってしまう人たちが多数出る】のが問題なのです。

正直申し上げて、第三者が2次創作マンガ持って行って「これ有名な●●のパクリ!作者捕まえて!」と警察に言ったところで、動きはしないでしょう。さすがにそこまで警察さんヒマじゃないです。そもそも彼らにとって点数になるかどうか微妙だし。
ただ、怪しげな弁護士名乗る系の人とか、怪しげな著作権管理団体( )みたいなところから「あなたの作品著作権侵害してますよ。お金払ったら見逃してあげるあるよ」みたいな詐欺が横行するでしょうな。 非親告罪だから、第三者がそういうクレーム出してお金儲けしたり、そのサークルを潰したりすることも可能なのです。
※詐欺罪も犯罪です。ぶっちゃけ、未遂でも罰せられるよ!

そういう団体が出たら取り締まればいいのですが……。
更に問題なのは、嫌いな同人作家・サークルに対し、そういう脅迫めいたものを送りつける輩が多数出てくること。それによって一気に同人というものが萎縮することが問題なのです。
ついでにいうと、この手の脅迫は2次創作(パロディ)だけじゃない。1次創作(オリジナル)であっても、「●●さんに似てる!だから著作権侵害!」と言っちゃう人が当然のように出てくることが予想されるわけであってだな。
めんどくさいことに、「著作権侵害物を販売する場を設ける違法業者!」って同人イベンターに脅迫したりする輩が多数出ることも想像できちゃうわけで。しかもこのロジックはパロディ・オリジナル関係ないから更にめんどくさい。
……たまに「コミケはヤバイけど、コミティアは大丈夫!」なんて言ってる人居るんですが、言いがかりからくる脅迫は、残念ながらどっちにも来かねないのよね。

嫌な言い方すると、著作権非親告罪化で同人文化(あえてこう言うよ)を潰すのは、同人誌を買ったり頒布したりする人たちの中から出てくるのです。それも、たぶん、「あの作家気に食わない」の一言だけで、全部が。
むしろ、警察はそこまで怖くないかなと思います。「著作権非親告罪化」の方では。
どっちかというと、わいせつの取り締まりのほうが怖いです



それでも非親告罪で罪になったらどうするの!責任とってくれるの!って人は。

…私からすると、罪だとわかって書き続けるの、もしかしたらいつか逮捕されるかもと思いつつ書き続けるの、隠れていれば見つからないと思いつづけるの、辛くね?
と思います。

正直、上記の理屈でいうと、ひっそりこっそりやってても多分来る人のとこは来ると思うんだ。
で、それって、著作権非親告罪化のせいじゃないんだよね。


わかりにくくなったので結論:
・多分何も変わらないと思うよ―
・怖いのは勝手に恨む動ける同胞だよー

いじょ。