強制わいせつ容疑で逮捕された男が、「漫画を読んで手口を思いついた」と答えたところ、その漫画の作者に「あなたの本を読んで真似た犯罪者が現れたから、模倣しないよう配慮して欲しい」という申し入れを行ったそうです。

新聞記事ソースは埼玉新聞6/13の日付になっている記事。ただ、最近の新聞各社は古くなると記事ごと消したり、有料会員じゃないと読めなくしちゃったりするので、この記事での重要な点を引用します。

強制わいせつ容疑の男「漫画を真似」 県警、作者に異例の申し入れ

 「検査」と称して女性の身体を触ったとして、強制わいせつ容疑などで県警に再逮捕された男が、成人向け漫画同人誌を読んで手口を真似したという趣旨の供述をしていることが13日、捜査関係者への取材で分かった。県警は被害の再発防止に向けて、漫画の作者に模倣した犯罪が起こらないよう配慮してほしいと要請した。県警によると、犯罪に模倣されたとして著作物の作者に申し入れをするのは異例。

(中略)

 県警は今月、男性に作品を模倣した事件が発生したことを説明。その上で、今後は模倣されないよう配慮してほしいと要請し、「作中の行為をまねすると犯罪になる」といった注意喚起を促すことなども頼んだ。男性は事件にショックを受け、県警の申し入れを了承したという。

 捜査関係者は「表現の自由との兼ね合いもあって難しいところだが、子どもを狙った悪質な事件で、社会に与える影響を考慮して申し入れを行った。今後、ほかの作者の作品が模倣されて犯罪が発生した場合も、同様の申し入れを行うことを検討したい」としている。


記事のタイトルにも書いてあるが、これは異例中の異例でなんです。
……なんですけど、どのへんが異例なのか、いまいち理解されてない人が多いというか、「当然じゃないの?」という方が結構多いので、どうやったら伝わりそうか考えてみたいと思います。

私は、別の案件で、似たようなことが起き、その結果どうなったのかを見ています。漫画じゃないもので。今回記事にする理由は、それと同じようなことが起き、同じ結果が漫画、ひいては娯楽系の表現全てに起こりうるのではないかと危惧しているからです。



何かを見て、真似をしようと思うのは自然である。しかし、人間は、それが犯罪行為に当たるとわかれば、真似をしないと思うよう考える生き物でもある。
そして、犯罪行為とわかっている何かを見て真似た犯罪者がでたとして、その何かに注意を促すかどうかというと、普通はありえないはずである。

例えばニュースで包丁で人を刺してニュースを見て、知人を包丁で刺して怪我させたり殺したりしたとしよう。 その場合、そのニュースを発信したTV局、もしくは新聞各社に「あなたの報道を読んで同様の事件が発生した。模倣されないような記事発信をして欲しい」というだろうか?
まずない。というか、そんなこと言われたら事件の報道はできなくなるわけで。

例えば空き巣が多発している時期に、空き巣の手口を公開する番組や週刊誌記事が発売される。そんなときにある空き巣が捕まって「週刊誌に書いてある手口を見て空き巣を始めた」と証言したとして、その週刊誌に「手口をバラすような特集記事を掲載するな」と注意するだろうか?これもまずない。

ミステリー作家の作品の手口を真似て殺人が起きて、その本を真似したと犯人が表現しても、少なくとも作者に直接真似されないように注意したと自ら発表するような例は聞かない。

2時間ドラマのサスペンスと手口も同様。
ついでにいうと、自殺の名所と言われている東尋坊で、自殺防止ボランティアの人がそれっぽい人を見つけては説得して自殺を止める事例はあっても、東尋坊そのものを閉鎖するという考えはない。(最近はポケGOの影響でポケストップが多い東尋坊は「いつ行っても人が多くて自殺する気が起きない」という理由で自殺者が激減してるそうですがw)

※今回は一応捜査関係者からの取材で…なので、正式な形で発表があったわけじゃない点に注意。

では、なぜ今回は作者に直接通告したのか。そして、今後も同様のことを行っていく予定だと取材で語ったのか。

考えられる理由はいくつかあります。
1)この模倣した漫画は「同人誌」である。つまり、出版社などの後ろ盾のない、個人の作品である。個人の思想に対し誰のチェックもなく発表し(即売会のワイセツチェックは思想チェックじゃないからね…)それにより犯罪が起きた場合、責任の範囲は作者個人のみなので、捜査をした、対策したという労力が少なく告知力が大きいため。
2)最近の同人誌には(別の犯罪抑制のため)奥付にメルアドなどの連絡先は書いてあっても、本名や住所などは記載されていない。そのため、最初に作者の個人情報を照会せねばならず、照会した以上は警告を出さないと(内部的に)理由や示しがつかないため。
3)同様に、個人情報が載っていない個人が出した書籍ということは、あえて身分を隠している=いわゆるヤクザや危険な思想を持つ宗教団体がバックに居るのでは?と考えたから。
4)2020年東京オリンピックを控え、海外から問題視されているエロ漫画を取り締まる口実に利用。
5)海外に向けて「DOJINSHI」は日本の文化とアピールしているわけで、その文化を模倣して性的犯罪が起きたとなれば日本の恥と世界中に告知することになってしまうため
6)犯罪内容が幼女、つまり児童に対する性的犯罪なので、児童ポルノ法ではずれた漫画も影響力がある!法律で取り締まるべきだ!と考える何処かからの圧力に応じて。
7)素人の個人の作品ならば、警察の言うことなどあっさり聞くとタカをくくっているため

わりと全部なんじゃないかなって気がしてきていますが、真相はきっと昼間さんあたりが答え合わせしてくれると信じてます(他力本願)。

で、ですね。
もし、一番大きな理由が6)だった場合、漫画じゃないもので似たようなことが起きているのです。
それは、TV番組、それもバラエティ番組。
昔…といっても私が生まれたのが79年なのであれなのですが、80年代から90年代半ばまでは次の日学校で真似するとヒーローになれるような番組が色々ありました。中には危険なものもありましたし、番組を真似して事故が起きたりもしていました。
そんなわけで、子供に悪影響だ!と特にバラエティ番組を中心にPTAから強く批判され、特に予算もなく視聴者も少ないであろうゆえの実験系バラエティが萎縮し、ゴールデンタイムの番組も批判されないようなマイルドな内容に変更を余儀なくされ、それでもあの手この手で批判をかいくぐりつつも面白い番組を作ろうと思う人達も番組終了や年齢などの問題で現場から去らざるを得なくなったり、その精神を若手に引き継ぐことなく消えたりした結果、健康的なお色気系と少し危険を伴う真似されやすい面白さを見せる番組は、少なくとも地上波から消えてしまっています。
CMも割とその傾向があって、クレームがあるとすぐ「撮影用です。真似しないでください」とかの注意文が入るようになったり、CMそのものがお蔵入りになったりしています。

んなわけで、最近のバラエティの主流はクイズ番組や、知識を披露するような番組が主流です。旅系バラエティも危険な地域には絶対に行かないとか、そこでのタブーは絶対に映さない(もしくは注意文が入る)など、家族で安心してみてられる作りになっています。
ついでに、深夜枠の実験的バラエティ(ある意味若手の作家が勉強を兼ねて自由に番組作りができる時間枠だった)も、一部の人気番組(だけどゴールデンに行くことを拒否できる力を持った番組)を除き、すっかり衰退してしまいました。というか、昔の23時台は深夜枠だったんだけど、最近の生活環境の変化の結果23時台は視聴率の取れない深夜枠ではなく、視聴率の取れる枠扱いなので、25時位からが(あの当時でいう)深夜枠扱いなんですよね。で、その今の深夜枠は、TVショッピングばかりです。はい。

今回の漫画に対する申し入れがこれっきりならばいいのですが(それでも萎縮は出るでしょう)、取材を読む限り「同様の事例があったら同じく警告を行う予定」と言ってるそうなので、(埼玉県警だけかもしれませんが)これっきりになるとは考えにくいものです。
そもそも、警察というものは、「カラスは白」だといったら白以外認めない的権力を持っており、故にその権力を正しく発揮してくれれば頼もしい存在なのですが、間違った方向にぶっ放す方々が結構おいでになりまして。つまり「ある日突然何かが規制される」事が起きてもおかしくないのです。それが漫画とは限らず、あなたの好きな何かかもしれない。
バラエティ番組の件も、流石に当時はいちいち注意をしたという報道はなかった(…と思うんだ)けど、警察からの指導や自主規制により萎縮しています。ちなみにPTAの力が強かったのでは?と思うあなた、PTAなどは特に子供に悪影響を及ぼす番組は片っ端から通報しまくってたり議員さんなどに規制要望出したりしてたので、結果警察が動いたというのもあります。ある意味PTAって一種の市民団体ですからね。

で、自主規制により萎縮した後って、完全に元に戻せないのです。昔ダメだと言われた表現方法を、怒られるかもしれないけど今の時代なら受け入れられるかもとチャレンジする人は少ないのです。というか、そんなことをすると、警察どうこうの前に業界内でフルボッコにされます。寝た子を起こすなと。

ただ注意されただけですまない、未来のことを考えると怖いからこそ、「異例」であり「権力の濫用」とネットでは叫ばれるわけです。報道系は警察が怖いのでネットオンリーメディアを除き警察の行動の正当性を書くか、事実のみに留めるかしかできないでしょうが。

そして、おかしいと思っても、声を上げないと誰にも伝わらない、つまり「YES」と判断されてしまうのです。「NO」というのは、声に出さないと伝わりません。そして、一人二人の「NO」は黙殺されるというか、数が多い方が有利なので、「誰かがNOって言ってくれるからいいや」「然るべき団体が言えばいい」と考えるのは、非常に甘い考えなのです。然るべき団体が潰されたらおしまいだしね。

……ただし。
「あの思想はダメだけど、あれはいい」「これは差別、あれは区別だから問題なし」みたいな考えを持つ人が大半故に、NOという声を上げる人が少ない、いても「自分たちのときには何もしてくれなかったからNOを潰す!」という間違った方向に突き進みがちでして。
そうなると、警察さんを始めとする権力者の思うツボなのよね。
そして、オタクというカテゴリーの人たちは、基本的に一致団結って行動を苦手にしているというか、そういう空気を感じると拒否感を示す人が多いんですよね。


というわけで、どうすべきかの答えはでているものの、実行は難しいよなあ多分という諦めの気持ちを込めつつ。
……そもそも成人向けって善悪・娯楽フィクションの判断がつく成人が読むものなので、実年齢じゃなく精神年齢未成年が読めなくする仕組みがあるといいけど、まず無理だしなあ。測定方法なんかないわけだし。