ホワイトキャンバスの経営者さんたちが逮捕の事件に鑑み、「ホワキャンに委託品を預けて踏み倒されている人、少額訴訟だ!」と煽っている方がおるようでして。
……まあ、煽ってる本人はなんというかその、ホワキャンに多大なる恨みつらみを持っているわけで、まあ気持ちはわからなくはないのですが、なんていうかその。うん、ねえ……?

まあ、その方について思うことはさておき。

少額訴訟は有効なのかどうかという話。



まず「少額訴訟って何?」という人向けに説明すると。

数万、数十万程度の金額請求で通常の審理(裁判)を行うと、かかる費用や時間に対し割に合わないということで、手続きを大幅に簡略化し、1回の審理で判決を出すことで原告側(訴える人)の負担を減らしスピーディに解決しようという訴訟方法です。これのメリットは手続きが簡略化されているので一般人でも訴訟手続きが可能なこと、そのため手続きに関係する費用も少なくできる、そして審理も1回で判決が出るので短期間で解決する上に、裁判所に行くために会社を休んだりする時間も減るということです。

とはいえ、当然ながら、どんなものにも少額訴訟が使えるわけではありません。

まず、金額について。
この記事を書いている2019年2月現在で、少額訴訟で請求できる金額の上限は60万円です。この「60万円」という数字ですが、元本ではなくて、延滞利息金や慰謝料その他をひっくるめて「60万円以下」でないと少額訴訟はできません。また、お金以外のモノの請求にも使えません
「預かってる(はずの)同人誌と売上金を返して!」となると、少額訴訟では対応不可となります。通常訴訟なら可能ですが。

次、少額訴訟の条件について。
少額訴訟を行うには他にも条件がありまして。
「相手側も少額訴訟での解決に反対しない」
……反対しないということはどういうことかというと、相手側に弁護士がついていて、その弁護士を通じて「少額訴訟ではなく通常訴訟で解決させたい」といった場合、手続きがそのまま通常訴訟に移行してしまうのです。はい、少額訴訟をやろうとしたら通常訴訟に移行してそのまま泥沼もあり得るわけでございます。ついでにいうと、そうなると第1回の訴訟裁判から通常訴訟に移行するので、その日は論点の確認だけして終わります。
そして。
「訴訟にするに値する証拠を原告(訴える側)が提出できる」
要は「この金額を請求するための根拠はなんぞや」は少額訴訟であっても訴える側が用意しないといけないのです。適当な金額や「多分このくらい」では、訴状を受け取ってもらえません。そこは訴訟ですからね。根拠なしにはいくら簡易裁判所でもうんとは言いません。

あと、誤解が割と多いのですが。
少額訴訟はたしかに短期間で判決が出ます。しかし、それはあくまで「一般的な訴訟(通常訴訟)」と比較しての話で、訴えを起こしてすぐに裁判の日取りが決まるわけではありません。そこはタイムラグがあります。しかも、先に書いたように「相手側も少額訴訟で解決を求める」場合に限ります。なお、「返答がない=全部認める」とみなされます。
(今回のホワキャン訴訟煽りに関してはこの「返答がない=OK」を悪用してる印象が見受けられますが……)
あと、「答弁書を提出しない=返答がない」なのですが、相手側が事故や重病など、期日までに出せない事情がある場合、その旨を書いた上で期日延長を事前に申し入れれば、審理日が延期できます。この「事情」に「被疑者として拘束中」も含まれるため(そして刑事被疑者の場合弁護人もつくため)これら期日延長の申し入れが提出されることは普通に考えられます。というか、ついてなくても普通に出せます。もっとも、弁護人がついた段階で、通常訴訟でとなりそうなものですが。
ついでにいうと、本人が出廷しなくても答弁書の提出があれば審理ができます。「警察に拘束されてるから今だ!確実に勝てる!」にはなりません。そして、その答弁書の中で「そのお金は払った」と書かれれば、相手側が払っていない証拠を提出しないといけません。訴える側が。

あと、少額訴訟は控訴はできません。というわけで1回で解決する印象が強いのですが、実は判決に対し「異議申し立て」ができます。異議は原告・被告どちらからでも可能です。そして、異議申し立てが出ると、通常の裁判による審理が行われます。

ついでにいうと、これは少額訴訟に限った話ではないのですが、裁判に勝ったからといって「命じられた金額がちゃんと支払われるか」というと、残念ながら「NO!」です。相手方にお金がなかったら払えないし、あってもバックレることはよくあります。差し押さえとかもできますが、差し押さえのためには更に面倒な手続きが必要です。変な話、隠し資産がどこかにあって、見せ金用通帳の中身が空っぽならばおしまいです。

……とまあ、他にもいろいろあるのですが(書類関係を自分で集めないといけないとかね……割と面倒なんですよ、簡易とはいえ訴訟ですから)。

個人的には「今回の件でホワキャンに『少額訴訟』はやめとけ」です。ほぼほぼ通常訴訟に持っていかれるうえ、和解すら難しく、仮に勝訴してもその金額が取り戻せるかは不透明だからです。
他にも審理なしな「支払督促」という制度があるのですが、これも異議申し立てが出れば通常訴訟に移行する上、異議申し立てが出ると相手方の居住地の裁判所で裁判開始となるため下手すると交通費がどえらいことになります(これは少額訴訟に関しても同じことが言えますが)。

っていうか、火元の彼は「支払督促」と間違えてるんじゃないかなあ?
にしても、個人で出すのはめっちゃ面倒なんだけど……。どっちかというとサラ金取り立てに使われるやつだし。

……あ、暇と金がある人はやってもいいと思います。
個人的には被害者の会を結成してその中でお金を出し合って弁護士に依頼するほうが、実は楽なんじゃないかと思ってます。ただ、勝てるかどうかはわからない上に、ちゃんと返してもらえるかというとこれまた微妙なのが難しいのですが。