あいちトリエンナーレの一つであった「表現の不自由展」が中止になりました。賛否両論…というかむしろ炎上マーケティングだろレベルで批判が多かったのは、見に行く前ゆえに本当に批判されるものだったのかはここで考察しません。問題は批判に混じって「ガソリン持っておじゃまします」的な脅迫があったことが中止理由とされたこと。

実際にそんなFAXが来ていたのなら中止になるのはわかります。本当にやってきて火をつけられたらたまりません。というか、ついこの間京アニの案件があったばかりですので、ガソリンの怖さはみんな自覚しています。予告なしでやられた場合、展示会を見た一般市民まで巻き込まれるのは必至です。

なので、警察も中止を強要するのもわからなくはありません。ただ、中止を強要するなら最低限、放火予告犯を捕まえて欲しいのですが…。



美術監督の津田氏がこう言ってるのよね。
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脅迫状の公開は必要ありませんし、犯人を刺激するだろうという警察さんの意見も正しいです。この手の脅迫は愉快犯が多く、「自分が中止にしてやった!」と間違った正義に溺れてることが多いのです。マスコミに注目されればされるほど調子に乗りますので、逆になんで一部のネット民が脅迫FAXの公開要求を迫るのかと。
(本当に必要なら、警察やマスコミが勝手に公開するだろうしなあという過去事例を思い出しつつ)

で、津田氏の発言内で気になったのは「匿名FAX」の文面。ネット経由であろうと匿名ということはありません。コンビニFAX経由であろうと、どこの会社からかまでは追跡できますし、そこからはプロバイダさんに「ちょっとちょっと」とログ提出をお願いすればすぐにわかります。警察さんが。

そう、「ネット経由で匿名化されたFAXだった」は誰が言ったのかでちょっと話が変わってきます。

津田氏(もしくは類する事務所)が脅迫FAX提出前に自分で調べた上での発言の場合、民間ではこの期間でわかるのはそこまでなのでやむなしです。津田氏がいかにITに詳しかろうと、個人の力で発信者を特定するためには、発信者情報開示のための裁判をする必要があり、これは1日2日で出てくるものではない。裁判準備も含め最低限1ヶ月はかかります。そのため、この段階で津田氏がわからないというのはある意味正解です。脅迫された日が金曜なり土曜なりだったとして、日曜時点でわかるのはせいぜいどこのプロバイダから発信されたかが限界です。この時点ではまだ匿名に等しいのです。

ただし、このFAXが愛知県庁や名古屋市役所に来ていた場合、津田氏はログ解析のしようがありません。となると、素直に考えてこの「匿名FAX」発言は警察から聞いたことになります。

警察さんの場合、捜査権限でプロバイダから発信者情報開示請求がすぐできる立場です。ただし、現状死傷者などが出ていない段階ですので、開示請求は月曜日になってから…くらいののんびりさは考えられます。
……いや、むしろ脅迫犯人捜査は月曜日からならまだマシなんですよ。私、中止圧力をかけた上で「匿名だからわかんね」と言って捜査する気ないんじゃね?的疑惑もあるんですよ。

ちなみに、警察にイベントの中止権限はありません。中止しないと会場や政府に圧力かけて会場貸出拒否させちゃうよ?とか、本当に放火魔やってきたらあなた責任取れます?とかの手法で中止を強要することは多々ありますが。
(とはいえ、圧力が即中止になるかというと微妙ではあります。警備体制強化案を持ってOKが出るケースはいくつか知っております)

それよりも、地方の警察ってほんとおおおおに脅迫案件仕事したがらないのよね。イベントが悪い中止すれば被害でないって、割と安易にいうんですよ。ひどいのになると「あんたが悪い」「やめれば脅迫来ないですよ」と平気で言いやがります。そして、動かない。中止になったから物的被害は出てない(ここでいう物的被害に「中止になったことで発生する損害」は含まれない(!))。じゃあいいじゃんと。
もう一つ、これはその時の担当によりけりなんですが、サイバー犯罪課勤務であっても平気で
「IPアドレスってなに?どうしてプロバイダが特定できるの?そこから先は特定なんてできないけど?」
と言いやがる刑事さんがゴロゴロいること。
いるわけないって?ネット脅迫受けた私が地元県警に言われたことがこれなんだよ!!

…なお、1年後に別事件の絡みで地元じゃない県警さんが私の脅迫案件について捜査することになったのですが、その時に「(地元)県警がそっちの資料くれないんで、申し訳ないけど資料もう1回もらっていい?」と言われた話も含めて、この本にわかりにくく混ぜ込んであります。今週末の大崎(2日目のみ)・コミケ3日目ともに置いてありますので気になる方は是非(ダイマ)。
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あと、同人界隈で脅迫というと黒バス事件が思い出されますが、ネット経由のイベント脅迫というと、2013年にとある掲示板(Not 2ch)に「暴力団組員を名乗る輩が複数の特定イベント(複数)名指しで参加者殺すぞー」案件。主催者が知る前に警察の方で把握していたのですが、警察がやったのは「主催者呼び出してイベント中止を強要すること」。実際に中止になったイベントはなかったようですが(色々面倒なことになったのは聞いてる…)、じゃあこの件、捜査されたかというとそういう形跡は全くない。もしかしたら別件で逮捕されてる可能性は否定しないんだけど、後日談は皆無のまま6年経ちますね。時効ですか、民事はまだだった気がするけど。

まあ、有名人か人が死ぬまでは警察も捜査しないんじゃね?だから警察が「匿名だからわかんね」って言い出してもあんまりびっくりしない。その程度には地方の警察官って(特にネットの)脅迫に疎いしめんどくさがって動かないんですよねー……。

というわけで、今回の脅迫犯。捜査すれば数日〜数週間で特定できます。ネットの世界に匿名はありません。ただし、警察がやる気ないと、「ネットで匿名化されてるので」というもっともらしい理由で捜査もされないことになります。そうさしないなら犯人が逮捕されることもありませんね。

脅迫と警察の思想がイコールとされるので、流石に捜査すると信じていますが……この手の実態を知ってるだけにねえ……。

とここまで書いといて「脅迫FAXそのものが存在しない」ってオチだったら、マジなんだったのといいたいところ。