C99Aで話題になった、人気アニメキャラの着物と同じ柄の反物(浴衣に仕立てられますよ)という話。
これに対して賛否両論…というか、著作権違反だのマナー違反だの騒がれてたのですが。

先日、秋葉原の路上で売られていたとのこと。
(注:調べてみたのですが、この反物を作った人が所属する会社が秋葉原SDGsイベント「MIRAI ACTION AKIBA2022」に出店していたようです。多分、その宣伝関係もあって路上って話になってるのじゃないかしら…実態はよくわからないんですけど)
(ちなみに反物がSDGsではなく、この会社の主力商品がSDGs関連ってことね。その主力製品ですら某アニメキャラ柄があるんですけども)


着物(正確には浴衣)の仕立て込みで100万かあ……暴利貪りもここまで来るとため息しか出ないわ。
(まあ、値段の付け方については「それで売れると思ってるんだろうから好きにつければいい」とも思うので、感想以上の詮索は野暮であると考えています)

で、ね。
これ自体に「違法物ガー!」という意見は多いんだけど、本当に知財関係で違法なのかという話はちゃんと調べてから叫んだほうがいいと思うんですよ。なにせ、違法でもなんでもないものに対して違法!っていうと、それは誹謗中傷とか業務妨害とかの罪で逮捕される可能性すらありますから。




ここからは、Twitterなどで挙げてくださった情報を元に法律的にどうかを判定しています。ただし、実際は裁判で判決が出るまでは100%無罪とも100%有罪とも言い難いという事実は頭に入れてほしいところ。ほぼ白(違法ではない)ものは断言していきたいところではありますが、訴える人や方法、どの点を違法と訴えるかによって結果は変わる可能性はありますよと。


1)例の反物と着物に仕立てること

あの柄の商品が漫画/アニメの著作権に触れるのではないかと言われがちですが。
元々あの柄(麻の葉文様)については、伝統的な模様です。これについて、集英社が商標登録出願を出したことはニュースになっていますが、商標登録は却下(拒絶)の結果になっています。

集英社の本目的は「悪質な便乗商品、違法なコピー商品を阻止し、正規品の流通を守るため」でありますが、そういう目的であっても「昔からみんなが自由に使える柄でしかない」「オリジナル性はない」という判定が出ておりますので、ぶっちゃけあの反物の柄自体を作ることに商標権の侵害は発生しません。

では著作権は?という話ですが。
そもそも、著作物とは何かというと「思想または感情を創作的に表現した、文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています。

美術品としての反物は著作物に入ると思われますが、あの反物は(たとえハンドメイド製品であっても)著作物とはいえないと解されます。うん、伝統柄なのでね。創作表現とはいえないんですよ。
そのため、あの反物そのものは集英社が著作権違反として訴えることもできないのです。

補足:いわゆる鬼滅柄全部がフリー素材的に使えるかというとそんなことはなくて、申請を出した6柄のうち3柄(冨岡義勇胡蝶しのぶ煉獄杏寿郎の着物柄)は商標登録されています。

反物の柄自体には著作権侵害が見られません。
では、その反物を仕立てて着物として売る行為は著作権侵害になるか。

……これも、仕上がり写真を見る限り、至って普通の着物と同じ形でしかない(創作性は見られない)ので、著作権侵害には当たりません、としか。これがねー、なんか普通の着物とは大きく異なる仕立て方法だったら可能性はないことはないんですけどねー。少なくとも反物の人が作る着物って、良くも悪くも普通の着物なんですよね。
(禰豆子の裾再現までやってくれたら著作権的にどうなるのか気になるところではありますが、着崩し・アレンジの範囲内って結果になりそうな気がしないこともない。もっとも、あの裾再現って普通の着物でできるもんなんだろうか?)


2)商品販売時のキャラクター名使用

C99Aのときにはキャラ名を出してたとか、市販の画集をそばにおいてPOP代わりにしてたとか。色々言われてはいるのですが、コミケ会場以外で「鬼滅の刃」「禰豆子」といった名前をPOPとして掲示したり画集などの公式イラストを展示したりというのは確認できません。

ただし、見た人が「鬼滅の刃!」とか「禰豆子の着物!」とか言ってるのは見ます。

という状況を考えると、よくある「客が勝手にそう言ってるだけで、うちとしてはそういう意図ではありません」というパターンであって、即取り締まりとか知財保護云々で訴えることができないパターンじゃないかなあ……と思います。版権持ってる会社が別の理由見つけたら可能性はないことはないけど。

ちなみに、今から集英社から正式に契約交わした会社が禰豆子の着物を出した場合どうなるかというのは気になるところではありますが、これとて、例の反物の人が名前を出さない限りはまず訴えられることはないと考えます。なにせこれ、伝統柄の普通の着物なので。

なお、コミケ会場における販売方法についてですが。
コミケに限らず、市販の画集を展示しつつ(画集の販売はしない)このキャラモチーフですよ―!という頒布方法は特に禁止されてはいません
売り物であると誤解されるような展示の方法は注意されますし、A1背面ポスターみたいに拡大するのは(複製の範疇を超えるので)著作権的にアウトなんですけど。時々「市販グッズを机の上においてディスプレイにするのは即売会マナー違反!」警察が学級会を開催しがちなんですけど、とりあえずコミケと赤ブーとYOUちゃんについては問題ありませんって規約に書いてあるからちゃんと読んでくれ。昔の規約はわかりにくかった所あるけど!(規約が変わる前から『紛らわしくなければOK』だったよ)

……もっとも、コミケ後に堂々と企業の商品的な顔して並んでるところを見ると、これはサークル側での頒布で問題なのではないか?と思うところはあったりします(企業エリアなら問題はないでしょう)。これについてはコミケ準備会が予想できたとは思えない。学級会行きになった原因はメロンちゃん委託販売云々のあたりからですし。


3)「加賀染」と「加賀友禅」

ここが一番難しいところ
加賀友禅というのは、ブランド名的な立ち位置で使用される言葉です。「協会に認定された加賀友禅作家」がつくり「加賀友禅を名乗るにふさわしい品質である」もの以外は使ってはいけないもの、とされています。そのために反物には落款という作家名を刻んだ判子が押されますし、証紙という「鑑定書」みたいなものが作品には添付されます。偽造防止のため証紙のデザインそのものは商標登録されています。

これに対して、加賀染という言葉は、ブランド名というよりは一般名詞に近い立ち位置でして、「加賀地方の染め物」くらいの意味合いです。協会に認定されてない(所属していない)作家さんの作品は加賀友禅を名乗れないので、加賀染の表記を用います。
ただ、協会に所属していないことと、技術がないことは必ずしもイコールではないところが厄介な話。
また、協会に所属している作家さんであっても、作品が協会に認定されないと証紙は発行されませんので、その作品(反物や着物)が「加賀友禅」を名乗ることはできません。そういうものを「加賀染」として流通させているケースもあったりします。

……このへんは、松坂で作ってる牛肉が全部「松阪牛」として出荷できるのか?とか、証紙発行してもらうために審査会に出してたら時間もかかるし高額になるから、安価なお土産物として大量販売できなくなるんじゃとか、いろいろあるので察してほしいところではあります。

察してはほしいのですが、一般の人の認識では「加賀染=加賀友禅」なんじゃなかろうかというところが、ちょっと厄介な話ではあります。

この反物は加賀友禅の証紙もなければ、落款もないので、少なくとも加賀友禅ではありません。C99Aのときにはそう言ってた!という証言もあるんですけど、口頭でのやり取りは証拠が残りにくいので判定はスルーします。そもそも、加賀友禅を名乗るには加賀絹をつかわないと認められなかった記憶すらあるので、木綿である以上は加賀友禅ブランドは使えないのよ。

ただし、「加賀友禅の技法を用いて作られる」という説明はセーフです。紛らわしいけども、こういう言い回しは結構あるのよね。新製品紹介とかで結構見かけます。

なお、加賀友禅を作る技法というと一般的に手描きで染めるのを思い浮かべるかもしれませんが、いわゆる形染めの手法もありまして(板場友禅・型友禅ともいう)こちらの形で作られた加賀友禅もあります(証紙デザインも手描友禅・板場友禅別個に分けられている徹底ぶり)。そして、この反物は板場友禅の手法を用いているのだそうな。

ちなみに、板場友禅(型友禅)を使った染め物工房は全国各地にあったりしますが、加賀地方における板場友禅工房は2社しかありません。たしか。
ちなみに板場友禅ってどういう技法よと聞かれますが、細かい詳細を省いた上で誤解を招きかねない言い方をすると「イメージとしてはくっそでっかくて目視作業なのにマイクロ単位の合わせが必要という繊細技術を求められるシルクスクリーンやプリントゴッコ」です。

というあたりから推測すると。
この反物および着物を「加賀友禅」と表記して売り出すのはアウトである。
しかし、「加賀友禅の技法を用いた板場友禅で染めた加賀染の反物」云々においては(板場友禅ってとこが嘘でない限り)違法性がみられない
ただし、加賀染=加賀友禅と誤認したお客様が詐欺だ!と思う可能性はあるし、紛らわしいので「不当表示防止法」にひっかかる可能性はある。……けど、この場合「誰かが購入して被害を訴えて…みたいな手順を得てはじめてことが動き出しそう」という気がしなくもないところが厄介ではあります。

ついでに、印刷物やWebサイトのような場所に書かれている場合は証拠として抑えられるんですけど、口頭説明における加賀友禅という言葉の使用については、水掛け論にしかならないので証拠的に使うのは難しい(Twitterで「担当者にこう言われた!」っていう説明だけでは証拠として弱い)

ってところかしら。
個人的には、コミケを始めとする同人の世界に近寄らないでくれでFAです。


余談:値段とか売り方とかその他思うこと

C99Aのときは20万だったのに!アキバでは100万!って話については、まあ強気すぎるなとは思います。値段の付け方については好きにしろ的考えではありますし、そのくらいの胆力がないと商売人って難しいんだろうなとも思うんですけど。に、しても、仕立て込みで100万かあ……しかも浴衣だから単仕立てだろ?完全採寸モードで手縫い仕立てだとしてもそんなにしないだろ普通…と思う、着物女子の端くれは思います。
(ちなみにC99Aのときはお試し価格だから…みたいな言い訳も可能といえば可能ではあるけども)
ちなみに、手洗いできるから木綿、という説明もあるらしいそうで。確かに、絹の着物は手洗いできない(厳密に言えば方法がないわけではないけど、高価な絹の着物を手洗いする勇気はない)とはいうものの、さ。個人的に手洗いできるからって100万の着物を洗おうと思うかというツッコミはココロの中にあったりします。
(最近はおしゃれ着洗剤・ネット使用かつ手洗いモードで洗濯機で洗濯できる着物も市販されています。既製品仕立て(オーダー採寸しない)なら1~2万くらいから買えたりします。自分の普段着のデニム着物なんか7000円くらいだしなあ)

あと、木綿製であることも絡んでくるとは思うんですけど、SDGsに取り込まれてるのよね、この反物と着物。で、これを作ってる会社の販売物とか業務内容とかを見てると、環境保護云々だけじゃなくいわゆるヴィーガンとかスピリチュアルとかも絡んでくるんだなあ……みたいな、どんよりした気持ちになってきます。そういや、ヴィーガンのうち動物愛護精神の人たち、確か絹織物ダメなんだよね。ああだから木綿なのかなあと。

と、多分この会社の担当者とどっかの女性起業家交流会的集まりで顔合わせしたよね(ただし、そこで知り合った人はほぼほぼ厄介だったので縁を切っているから今は知らん)……と思い出している私の戯言はここまで。