内閣府が制作した「令和5年度 若年層の性暴力被害予防月間」について、使用を取りやめにしたと報道されました。理由としては、
  • 制作過程において、たなかみさき様の作品を参考とした事実があり、作品の類似性に関するチェックが不十分であった
  • 内閣府男女共同参画局としては、本ポスター及び関連動画の使用を続けることは適切ではないと判断
だそうです。


同じく、制作を担当した凸版印刷側も、お詫び文をリリースしています。(リンク先PDF)


で、ですね。
取り下げるのはいいとして、理由が「作品の類似性」でいいのかっていう話です。


類似性というと、トレパクとかそういう話になりそうなんですけど、これ、同じ絵を真似たというよりは画風を似せたという意味であり、同人学級会界隈でいう「画風パク」と呼ばれるものに近いかなと思うのです。

では、画風パクというものは実際に問題なのか(特に著作権的に)という話が、今回の趣旨でございますよっと。


結論から言うと、【作者を偽っていない状態】における画風を似せたイラストというものは、著作権侵害に当たる可能性が低いと考えられます。
※可能性が0だと書かないのは、裁判で無罪有罪的判決が出たものではないからです。

そもそも論として、著作権における【画風】というものは「アイデア」と同じ扱いになります。そして、アイデア自体は、著作権で保護されることはありません。
この辺、同人学級会だと著作権違反って言われがちなのが厄介なんですけれど、同人であれ商業であれ、絵柄寄せとか画風を似せたもの(画風パク)は著作権的には何の問題もなかったりします

もちろん、画風を寄せたうえで(自分自身ではなく)〇〇先生(寄せた先)が描いたもの!とか言ったらアウトですよ。(ただし、その場合も著作権侵害と言うよりは詐欺罪的な話になる)

今回のケースにおいては、ノンクレジット、つまり作者不詳状態です。
たなか氏ではなく別のイラストレーターに画風を似せて依頼したものと考えられます。ただ、たなか氏だと詐称する意思は、少なくとも内閣府にはなかったように思います。
(この手の案件における仕様書で、個人名を明記した画風指定は滅多にないんじゃないかなあ…ターゲットが〇代女性とか、そのくらいで)
この案件を受けた凸版印刷側については、どの程度考えていたかはちょっとなんとも。そもそも、こういうのって更に下請けがいて、そこが依頼することもあったりするのでねえ。
(こういう画風で描いて!という依頼自体は割と目にする。画風寄せができる安いイラストレーターに、たなか氏の資料を渡したんだろうなあとは思うところがある)

似てる!って言いだしたの、見た人なんでねえ。
最悪、指摘されるまで(凸版印刷はともかく内閣府側は)気づいてなかった説もあったりするし。

あと、そもそも論として、画風というものは、参考資料を渡す渡さない以前に似てしまうことはよくあります。「有名作家であっても?」と言われることがあるのですが、あなたの有名作家が相手の有名作家とは限らないという前提を覚えてください。そして、どっかでみたことがあっても、なんならそういう日常生活に存在するあらゆるものを脳内解釈した上で出力するのがアートであり、その人のオリジナルとなっていくのです。なので、頭の中のイメージで描いただけなのに似てしまったということはあるあるなんですよねえ。あくまで、脳内アイデアの1つにすぎないと解釈するのが、著作権です。

ちなみに、意識的に似せた場合はどうかという話ですが。
これも、著作権法的には【(完全コピーではない)画風・ストーリー展開・キャラデザイン・構図設定】などはすべてアイデアの一部とされるため、違法とはいいがたいものとなります。特徴的、オリジナリティがあるもののについては「盗用」となるのですが、デッドコピーではない場合、裁判になるまで違法合法判定されません。過去の事例を見ると、独自性が薄い、よくある記号の組み合わせということで棄却されてることが多いかな…この辺は素人にはわかりにくいところもあります。

というか、意識的に似せたら違法となると、田中圭一さんという漫画家が存在してはいけないことになってしまうw
実際問題、元アシスタントなどの理由で絵柄が似るという漫画家・イラストレーターの方はいたりします。そういう人たちを盗用とか絵柄パクとかは言わないでしょう。
という話なんですよ、著作権法の観点で行くと。


ただし。
著作権法ではない、もっと言うと法律では判断の付きにくいところで、今回のポスター使用の取りやめはやむなしと考えます。

今回のポスターは描かれているシチュエーション(画風ではない)と添えられた文面の組み合わせにおいて差別的だ!と批判を浴びたものです。要は炎上案件なんですよね。この炎上案件の是非はさておいて、このポスターにクレームを付けたい人が、この絵のタッチに似ているイラストレーターを主犯として挙げ連ね(本人は批判と思いこんでいる)誹謗中傷を繰り出そうとするのは容易に想像ができます。というか、たなか氏を批判しているツイートもいくつかみてます。厄介なのでブロック推奨だけど。
と考えると、著作権とは別の問題を引き起こす上に、そもそも炎上するきっかけの議論というものが男女の間柄における性暴力被害撲滅そのものを懐疑的にするものであります。というわけで、ポスターの絵などがふさわしくないと言うのは理解するところであります。しかも、このポスターをきっかけに新たな性別間の暴力を引き起こしたらなんの意味もありません。

だからこそ、取り下げるための理由を正しく書いてほしいなあと思うところ。
著作権侵害を匂わせるような謝罪はやめてほしいのよね。画風寄せが問題ではないからさあ。

という話。


……この案件を根拠に、また画風パクとかで学級会が起きそうだよなあ…っていうか、そういう過去の事例を根拠に相手を誹謗中傷するための学級会が過去に何度起こされてきたか。もう勘弁してほしいところであります。