前回の記事の続き。ちなみに、タイトルだけちょっと変えました。(前半→前編)



前回の続きの前に。
前編の投稿からまる1日経過して、今回取り上げている元記事について修正が加えられたとのお知らせが届いております。
記事更新履歴
・艦これの壁サークルの調査のデータに誤りがあったので、一部修正するとともに注釈を追加。大勢に影響はない。
・伊東ライフ氏=イナゴ・同人ゴロ、女性の同人オタク=腐女子と読める記述は不適切と考え一部修正を加えた。
・イナゴ・同人ゴロについて、さらに表現を修正した。この点についてはのちに公開する予定の補足・謝罪記事で改めて説明させていただきます。
・男性向け・女性向けという表現に注釈を追加。
・全体的に、文意を変えない範囲で読みやすくしている。

というわけで、すでに公開している前半部ツッコミに対して「濱澤こそ注釈とか文意を読んでなくね?」と言われそうですけど(というかTogetterみたら言われてた)、流石にその段階での文章に対するツッコミだからなとしか言いようがないです…ハイ。
(個人的には、まだなんで怒られてるのか、何を指摘されているのか、割と重要なところを理解していないなという感想はあります。あとさ、記事更新履歴に日付書こうよ日付)

では、前回の続きに入ります。

ツッコミ元↓




「ニッチな美少女二次創作」も消えつつあるの項

前項の結論に当たる

こうしてコミケには男性向けジャンルだけが残った

の書き出しからしてツッコミしかできないんですけど、結論は動かせないからなあ。というわけで、ここは一旦保留にします。
その上で。
<仮定>
コミケにおける美少女系二次創作の多様性は失われつつある。

<調査>
  • コミケの独立ジャンルコード9つを対象にコミケカタログを目視で調べる
  • 調査対象カタログは、C84(2013夏)・C87(2014冬)・C90(2016夏)、C91(2016冬)・C93(2017冬)・C96(2019夏)・C99(2021冬)・C101(2022冬)の8回分(C84を起点として3の倍数回+C91)
調査項目:
  • サークルの数(規模)(全体からの割合)
  • 合同誌とクロスオーバー誌(各ジャンルの同人誌に占める割合)
  • 合同誌のテーマ(成人向けでない性癖合同誌を抜き出す)

<結論>
ニッチな同人誌は、元ネタとなるジャンルやキャラクターに一定以上の人気が存在しないと頒布されない。
たとえ人気が高くても、新参ジャンルではニッチな同人誌が頒布されない

調査方法については、そこまで変ではないと感じます。個人的には3回おきよりは2回おき(夏コミだけ/冬コミだけ)にしたほうが粒度は上がりそうだなあとか、(理由はちゃんと明記されてるから理解できるけど)C91を調査間隔に混入させるのはノイズになりそうだなあとかは思いはするものの、基礎的で地道な調査を選んでいて好感が持てます。
もっとも、独立ジャンルコード化されたジャンルだけで調査をするというのは、コミケ男性向けの粒度としては微妙であります。独立ジャンルコード化されたものは確かに巨大ジャンルではあるんですけれど、必ずしもピークと独立化は一致しないですし、そもそも「912:男性向」という存在もあります。男性向け=エロと思われがちですが、どちらかというとごった煮・ジャンル複合・よろず系な立ち位置のジャンルコードなので、特にクロスオーバーや合同誌の調査を行うならばこちらも含めたほうがいいような気がするのです…。
(独立コード化されたジャンルであっても、男性向けで参加するサークルは結構な数おられますが、割合についてはジャンルによって異なる傾向が見られますので)
また、「成人向けでない性癖合同誌」という区分けも難しいものであり、調査結果を見たところ、
「…あれ、これ私読んだけど普通に成人向けだったよ…?」
「え、これニッチ系エロ性癖にカテゴライズして大丈夫??」
というものもちらほら(流石に私とて全部読んでるわけじゃないけどさ)。ニッチな同人誌とジャンル調査ならば、成人向けかどうかとか、性癖がどうのとかは区分けしないほうがいいんじゃないでしょうか。そもそも成人向けって、リョナとかグロとかも含みますし。
(もしくは「僕の好きなのはこれ!」と断言しちゃったほうが、まだ清々しいです)

という、調査の仕方まではまあいいとして、それでそういう結論に導けるんだ…!というのが率直な感想です。
ちゃうねん。ニッチの意味からして違うねん。
合同誌とかクロスオーバー系は有名キャラで創作されるケースが多いのよ。だって、知らないキャラで執筆者を集めるのは難易度が高いから。クロスオーバーは元ネタがわからないと理解できないから、必然的に作品の象徴になるキャラが重要視されがちなのよ。
あと、ニッチな性癖はエロが多いのよ。非エロの性癖はニッチじゃなくてメジャー系なのよ
と、文芸と2次創作小説掛け持ちサークル者の私は、強く思いました……。


調査する項目がちょっとずつおかしくて、更に分析もちょっとズレた結果が「なんでこうなる」なんだろうなあと思います。全部がちょっとずつズレているので、本人たちは別に変じゃないと感じてるような気がします。

そのうえで、仮定であったはずの
コミケにおける美少女系二次創作の多様性は失われつつある
が正当となってしまうのは、そりゃツッコミ多数だよなあ…と思うのです。

しかも、
現在、古参ジャンルの人気が復活したり、ジャンルの細分化に歯止めがかかったりする兆しはない。
コミケで頒布される美少女二次創作は、少なくとも向こう数年(あるいは今後ずっと?)均質化していくだろう。
コミケは老人とともに心中する運命にあるのかもしれない。

と書いてしまうのは、流石に短絡的すぎます。
特に最後の一文は、結構な数のサークルさんや参加者さんに喧嘩を売る発言になってますけど、そこは自覚がありますでしょうか…?
(自覚なさそうだなあ…喧嘩なんか売ってないですよ深読みしすぎですとか言いそうだなあ……)

余談ですが、サークルカットや頒布概要には書かれない【別内容の本】【別ジャンルの本】が当日売られることは、そこまでレアではありません。また、コミケ以外のイベントで発行した既刊を「コミケ初売り!」のように置くことは割とあるあるです。さらに、合同誌などは執筆参加した複数のサークルで置くところもあれば主宰サークルのみで頒布されるところもあったります。
これらの事実を過去のコミケカタログだけの調査で拾い上げるのは難しいのですが、結果に影響しないレベルのノイズかというとそんなことはない程度には大きな要素です。
その辺考慮されているように見えないところが気になっています。
特に東方・艦これ・アイマスなんかは、ジャンルオンリーキャラオンリーも比較的多いジャンルなので、コミケで3回おきという粒度での調査だと拾いきれない作品がかなりあるんじゃないかなー……。

あんまり本質的な話ではないんですけど、個人的に気になっている箇所はここ。

サークル数の多寡に着目すれば、2013年から2022年は以下の4つの区分に分けられる。つまり、
第一期:東方全盛期(2013)
第二期:東方・艦これの並立(2014-2016)
第三期:FGO登場、アイマス中興(2017-2019)
第四期:ウマ娘・VTuber登場(2020-)
の4期である。

……自分、最初におかしいだろって突っ込んだのはアイマスの位置についてなんですけど、そもそも【東方全盛期:2013年】ってところから懐疑的なんですよね。
アイマス中興を2017年とするのは、アイマスの独立コード化がC91…つまり2013年冬だからと判断されたからで、根拠については理解できなくもないのです。
(独立コード化とジャンルの盛り上がりは必ずしも一致しないと言いますか、盛り上がっていても様々な事情で独立コードが作られない作品も結構ありますので、個人的には独立コード化を判断基準にするのは机上論だなと感じています)
東方の独立コード化ってC76(2009年夏)であり、そこから確かに拡大してたので全盛期は独立コード化タイミングではないだけどさ、そのあたりの伸び率とか盛り上がりとかちゃんと調査してます?と感じてしまうのです。ハイ。
アイマスについても「中興=衰えていたのを、ふたたび繁栄させること」だから、第2期ブームとしては正しい!という意見はあって、それはそうだな…とは思うものの、やっぱり実体験とはズレてるんだよな…というのが正直な感想です。
ちなみに、


このような東方オワコンソムリエ履歴をまとめたツイートがありましたので参考に引用いたします。
自分はこの時間軸を体感しているので、(当時オワコンと言われた理由や言ってた人たちについてはさておき)記事と艦これ・アイマス・東方の反映時間軸にズレを感じるんですよね。そう、ぶっちゃけ艦これはもっと前なのよ。
このへんは、当時の空気を体験している人たちと、それを知らない世代があとから資料だけを参考に机上の空論城をしているかで異なってしまうのは、仕方ないと言えば仕方ないけど正確じゃないよね!という箇所の話でした。

人気作家が二次創作から消えたの項

ここの項については、初稿時点では誹謗中傷レベルの内容になっておりました。あのね。同人ゴロとかイナゴって言葉はね、例えるならば「ヤ●ザ」とか「犯罪人」と買って決めつける意味を持つ言葉なのよ。身内内の日常会話程度だと(誰も訴えなさそうなので)ギリセーフだし、「こういう行為は同人ゴロ(イナゴ)」って文脈で使用するのは許されがちではあるんだけど、人を指して言うのはアウト。

そのうえで、
なぜ新参ジャンルではニッチな同人誌が売れないのだろうか?
なぜ、Fateの女性キャラクターやホロライブのニッチな同人誌が少ないのか?
については、単純に書き手に刺さらなかっただけだろうなあ(書き手とて好みはあって、みんな売れるために書くんじゃなくて書きたいから書くんですよ…)で終わりな気がするんですよ。
だからこそ、
ここで取り上げたいのは、人気作家が生計を立てられる程にかつての巨大ジャンルが盛り上がっていたことだ。ジャンルが細分化した現在、彼らはなにをしているのか?
商魂たくましくジャンルを変えつづける彼らを追うことで、なぜ古参ジャンルから新参ジャンルへのスムーズな移行が起こらなかったかが明らかになるだろう。
みたいな仮説を立て、初稿段階で同人ゴロだのイナゴだの宣ってしまうのだろうなあ…と思います。

壁配置ってな、結果であって、収入を手に入れるための手段じゃないんよ。

あとさあ、なんで二次創作をやめてオリジナルに書くことがそこまで特筆されるんだろうか。いや、コミケ参加をやめてコミティアに行くのは、ジャンルが違うからでは…?
オリジナル作品も同人よ?コミティアと文学フリマを取り上げといてさ、

そもそも同人作家が二次創作を止めてオリジナル作品に移ったがゆえに、同人ジャンルの活力が削がれていることが一因と考えられる。

はねえべよと私は思うのです。
(ちなみに、コミティアと文学フリマは商業作家が自作の商業誌を販売することに問題がないので、たまに自分が作者である作品のスピンオフ的なものを出して、勝手に勘違い炎上させられることがある。そして文学フリマに至っては二次創作であっても問題はないのだが、二次創作出して炎上することも稀にあったり)

あとさ、伊東ライフさんとか比村奇石さんとかが同人活動をやめているって記述もなんか違和感が。
(このあたりはコロナ禍という社会活動一斉停滞モードの余波と考えるのが自然じゃないかな。コロナ禍によって同人活動を停止させ、そこから再起動できていない(もしくはそのままやめてしまった)書き手さんは、男女問わず多数おられます。壁だからとかそういう同人内ランキング的なにかとは無関係)

なぜ同人誌がつまらなくなったのか?――「ロングテール化」の末路の項
10年代の総括――島宇宙の大崩壊ビッグ・リップと大収縮の項
とまあ、ここまでツッコミどころが多く、首をひねる分析結果を元に出された新たな疑問と仮説がこの見出しに現れています。そして、最後の総括についてもまとめて。

……私さ、ちょっと思うんですけど、コミケが衰退したのと、同人誌がつまらなくなったのって、全然別の話じゃないかな……。コミケが本当に衰退したのかとか、同人誌が本当につまらなくなったのかってのは、分析と議論によって賛否両論になるでしょうってところで、どういう主張をされても「まあまあ、お前の主張はそうなんだな、お前は」程度の話なんですけども。
この2つを疑問に思っていたとしても、併存させるための調査結果がないと思うんだー……。
なので、ロングテール化という仮説が、ものすごく強引で突飛に感じ、結論ありきの調査にしか見えないと思うのです。

そのうえで、筆者は「同人誌も商業誌と同じような市場の仕組みで作られて売っていると思ってる」んだなーと感じました。男性向けの自称:同人誌研究家あるあるですね。

なんとか頑張ってロングテール化を述べたいのだったら、それは【二次創作を大前提に考える同人誌】ではなく、【二次創作を生み出す商業誌】に対してではないでしょうか。
それは「10年代の総括」だからOKにはならないんですよね。こういうものの見方がある!という主張はありですけど、それならそれでもっとわかりやすい論説と調査研究が必要となります。

なので、
筆者たちはコミケの変化をとらえるため、既存のデータを利用するとともにコミケカタログをくまなく調査した。
結果、コミケから女性向けジャンルが消失したこと、コミケに残った男性向けジャンルが退屈になりつつあることを確認できた。
またコミケを見限り、少なくない同人作家がジャンルオンリーと一次創作に転進した。同人文化の細分化とジャンル内部の萎縮は、ロングテール現象として整理できるだろう

コミケの時代は過ぎ去った。日本最大の同人誌即売会は、その意義を静かに失いつつある。

というまとめ部分が、この結論ありきで調査研究しているし、そうなるデータとそうなるように誤認した解析結果だし、そもそもそうは言えないんだけどあなたはそう思うんだね見てる世界が違いすぎるなあというのが、私の率直な感想です。

ともかく、この2つの項はいろいろな意味で「何を言ってるか自分たちでわかってる?」感が強いです。そういうつもりで書いてないんだよ!ってことでしたら、この項目を全面的に書き直すことをおすすめします。


というわけで、大枠的なツッコミはここまで。
(細かいツッコミとか、そこスルーするの?という箇所は多数残してありますが、ここまでで読み込み+執筆時間を(前回からの累計で)10時間以上使っていますし、ちょいちょいサイレント修正されていて、その都度該当分を読み込んで意図することを掴む時間が大変なんじゃ……)

ここで終わってもいいのですが、それはそれでどうなのかなと同人評論書きの私が思ってしまったので。もう1回「コミケは衰退したのか?」「女性向けがコミケから消えたのか?」あたりをメインテーマに、この方々が喜びそうな論説を別目線で執筆して終わりにしたいと思います。

目標は、M-1グランプリ2023の敗者復活戦までに(?)。

12/23追記:
続き!これでもうおしまい!!